無題

  

 前評判どおり素晴らしい本でした。厳密に論理にしたがって、稠密な議論が展開され、ひとつの理論体系が構築されていくのだが、その「運命論」には祈りや諦め、さらには、論理をつねに超過する現実が文字どおり織り込まれていく(「あるようにあり、なるようになる」の交錯配列の部分を参照)。結果的に「現実」を救済する「運命論」となっている。

 

また、著者の意図とはまったく別に、僕自身はこれを、ドゥルーズ『差異と反復』の副読本として読んだ。冒頭にある「普遍・一般・特殊・個別」の概念のずらし方、特異点としての現在(から、その「すべての時点が、それぞれに無限回の特異性を含みつつ、しかも完全に平等化」する「無時間的な現在」=「永遠の現在」へのステップ)など、両著作は共通する課題に取り組んでいる。とりわけ、『差異と反復』第二章の時間論は、第一の時間から第二の時間への移行は、過去・現在・未来の相対的等価と時間推移の絶対性(「時間原理I」)の組み合わせ、「タガの外れた未来」である第三の時間は、時間推移を「未来→過去」ではなく「未来←過去」によって可能となる絶対的に「無としての未来」だ、というように対応づけることができるし、そこで働いている論理を明確に記述されている。『差異と反復』の時間論について、入不二氏による説明以上のことを何か言うことは(さしあたり)できないと思う。