脳と無意識―ニューロンと可塑性

脳と無意識―ニューロンと可塑性


第2章「ディエゴとハイドン―知覚と記憶」

目の前に出された七面鳥を、ナイフとフォークで切り分けるとき、あるいは、プロのゴルファーが何も考えることなくショットを打つとき、そこでは過去から現在にかけて幾度となく行われてきた運動の学習が機能している。われわれは、「様々な運動を意識的に点検する必要はないのだ」。ここでは「非意識的な記憶」が関係している。
この「非意識的」と無意識を混同してはならない。「神経科学と精神分析の境界や一致点を研究する文献では、非意識や手順の記憶が、たいてい無意識と同一視されている」。
ゴルフのショットの手順のような記憶は、容易に意識に呼び起こすことができる。しかし、フロイトが無意識という語を充てて表現したのは、夢や言い間違い、忘却を介した精神分析的過程においてしか到達しえないような、「意識にじかにアクセスできない完全に特異な一連の痕跡や連合」のことである。
「知覚は神経回路に標識を刻み付けて跡をのこす」。外的環境と神経回路網との相互作用によって、刻み込まれるこの記憶が、意識的な内的現実を形成するのだが、無意識は決してそのような現実とは異なる水準に位置している。